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【基礎知識】労働時間の適正な把握とは? 企業に求められる管理方法と判断基準

執筆者の写真: 大澤労務管理事務所
大澤労務管理事務所
9月22日
読了時間: 10分
労働時間の適正な把握を解説する記事のバナー。女性と時計、出勤・朝礼・開店準備・賃金台帳の写真、見えない時間を見逃さない、OSAWAの文字。


着替え・朝礼・手待時間・研修…

どこまでが労働時間かをケース別に解説


制服への着替え、始業前の朝礼、開店準備、休憩中の電話当番、参加必須の研修。

これらはいずれも、労働時間に該当する可能性が高い時間です。


「実際に業務をしていないから労働時間ではない」という判断は誤りです。労働時間かどうかは、就業規則の定めではなく、企業の指揮命令下に置かれているかという実態で判断されます。

労働時間の把握が不正確なままだと、割増賃金の未払い、36協定の上限超過、従業員の健康障害といったリスクが積み上がります。

本記事では、厚生労働省のガイドラインをもとに、労働時間の判断基準と企業が講じるべき措置を整理します。


この記事でわかること


●    労働時間を適正に把握しないことで生じる5つのリスク

●    ガイドラインの対象となる事業場・従業員(適用除外は誰か)

●    労働時間の定義と判断の考え方

●    労働時間に該当する5つのケース(着替え・手待時間・研修・健診など)

●    始業・終業時刻の記録方法(原則的な方法と自己申告制)

●    賃金台帳の作成・書類の保存義務と罰則

●    よくある質問(着替え・電話当番・管理監督者の扱い)





なぜ労働時間の適正な把握が必要なのか


働き方改革の一環として長時間労働の是正が進むなか、その前提となるのが労働時間の正確な把握です。把握が不正確な場合、企業には次のようなリスクが生じます。把握です。把握が不正確な場合、企業には次のようなリスクが生じます。


リスク

内容

過重な長時間労働

実態が見えないまま労働時間が積み上がる

割増賃金の未払い

未把握の時間が残業代の未払いとなり、遡及支払いを求められる

36協定の上限超過

時間外労働・休日労働の上限を超え、法令違反となる

従業員の健康障害

過重労働による心身の不調、労災リスク

優秀な人材の流出

働き方への不信が定着率の低下を招く


長時間労働による健康障害の防止策については「過労死を防ぐために企業が取り組むべき6つの対策」で詳しく解説しています。




ガイドラインの適用範囲──誰が対象か


厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を公表しており、企業はこれを踏まえた対応が必要です。


区分

対象範囲

対象となる事業場

労働基準法のうち労働時間の規定が適用されるすべての事業場

対象となる従業員

原則としてすべての従業員

適用除外となる従業員

① 労働時間の規定が適用されない者(管理監督者、農業・畜産・養蚕・水産の業務従事者、監視・断続的業務で労基署長の許可を受けた者)/② みなし労働時間制が適用される者(事業場外みなし、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制)


【適用除外でも「管理不要」ではない】

ガイドラインの対象外となる従業員についても、企業には健康確保のために適正な労働時間管理を行う責務があります。「管理監督者だから労働時間は把握しなくてよい」という運用は誤りです。深夜労働の割増賃金は管理監督者にも発生します。





労働時間とは何か──判断の基準


労働時間とは、企業の指揮命令下に置かれている時間を指します。実際に業務を行っている時間だけではありません。

労働時間に該当するかは、労働契約や就業規則の定めのみで決まるものではなく、客観的に見て従業員の行為が企業により事実上強制されているか、参加を余儀なくされたものかなど、個別具体的な状況によって判断されます。



■労働時間に該当する5つのケース

ケース

内容

具体例

① 業務に従事する時間

始業時刻から終業時刻までの時間(休憩時間を除く)

通常の業務時間

② 準備・後始末の時間

企業の指示による業務の準備行為や終了後の後始末に要する時間

制服等の着替え、開店前準備、事業場の清掃、朝礼

③ 手待時間

指示があればすぐ業務に従事できるよう待機する時間(労働から離れることが保障されていない)

トラックドライバーの荷待ち時間、休憩中の電話当番・来客対応

④ 研修・教育訓練

業務上、参加を義務付けている研修等の受講時間

所定労働時間外の必須研修

⑤ 健康診断の受診時間

特殊健康診断は労働時間。一般健康診断は労使の話し合いによるが、労働時間とすることが望ましい

特殊健診/一般健診



■判断のポイント


▶着替え時間

作業着や制服への着替えは、安全面・衛生面から企業が着用を義務付けているために発生するものです。更衣室を用意しているケースも多く、「事実上強制されている時間」として労働時間に該当する可能性が高いといえます。ただし、始業前のランニングや終業後の私用外出など、個人的な都合による着替え時間は含まれません。

▶休憩中の電話当番

休憩時間は労働から離れることが保障されている必要があります。休憩中に電話や来客対応を求められている場合は、実際に対応したかどうかにかかわらず労働時間に該当します。また、対応を求められておらず外出も自由な時間であっても、やむを得ず対応した場合、その時間は労働時間とみなされます。

▶所定時間外の研修

実態として参加を義務付けているかは、就業規則上で不参加が減給処分等の不利益取扱いの対象とされているか、受講内容と業務との関連性が強く不参加により業務に具体的な支障が生じるか、といった観点から検討されます。


上記①〜⑤以外の時間についても、実態として企業の指揮命令下にあると判断される場合は労働時間となる可能性があります。




企業が講じるべき5つの措置


① 始業・終業時刻の確認および記録


企業は従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録しなければなりません。

方法

内容

原則的な方法

① 使用者が自ら現認して記録する/② タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認・記録する

自己申告制(やむを得ない場合)

下記の措置を講じたうえで実施する



▶自己申告制で必要な措置

✓    自己申告制の対象となる従業員に、労働時間の適正な申告について十分に説明する

✓    実際に労働時間を管理する者にも、ガイドラインを踏まえた説明を行う

✓    自己申告された時間と実態が合致しているか、必要に応じて実態調査を行い、補正する

✓    入退場記録やパソコンの使用時間と自己申告に著しい乖離がある場合は、実態調査を行い補正する

✓    残業時間の上限設定など、適正な申告を阻害する措置を設けない

✓    36協定の上限を超える申告を阻害する慣行がないか確認する


テレワークにおける労働時間の把握方法や中抜け時間の取扱いについては「テレワーク導入の労務管理──労働時間・中抜け・労災まで企業が押さえるポイント」で解説しています。



② 賃金台帳の適正な作成


従業員ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数などを適正に記入しなければなりません。

【罰則あり】

賃金台帳に必要事項の記入がない場合や、故意に虚偽の労働時間数を記入している場合は、30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。



③ 労働時間の記録に関する書類の保存


労働時間の記録に関する書類は、5年間(当分のあいだ3年間)保存しなければなりません。

●    労働者名簿

●    賃金台帳

●    出勤簿やタイムカード

●    残業命令書、残業報告書 など



④ 労働時間を管理する者の職務


労務管理の担当部署の責任者は、「労働時間が適正に把握されているか」「過重な長時間労働が行われていないか」など、労働時間管理の適正化に関する事項を管理します。問題点を把握した場合は、その解消を図ることが必要です。



⑤ 労働時間等設定改善委員会等の活用


事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じて「労働時間等設定改善委員会」などの労使協議組織を活用し、現状の問題点や解消策の検討を行います。




労働時間管理チェックリスト


✓    始業・終業時刻を客観的な記録(タイムカード・PCログ等)で把握しているか

✓    自己申告制の場合、必要な6つの措置を講じているか

✓    着替え・朝礼・清掃などの時間を労働時間として扱っているか

✓    休憩中の電話当番・来客対応の実態がないか確認したか

✓    所定時間外の研修について、参加義務の実態を確認したか

✓    賃金台帳に労働時間数・時間外・休日・深夜労働時間数を記入しているか

✓    労働時間の記録に関する書類を必要期間保存しているか

✓    労働時間管理の責任者を定め、問題点を把握・改善する体制があるか

✓    管理監督者についても健康確保の観点から労働時間を把握しているか




まとめ


労働時間の判断は、就業規則の定めではなく「企業の指揮命令下にあるか」という実態で決まります。着替え、朝礼、手待時間、参加必須の研修など、業務そのものではない時間も労働時間に含まれる可能性がある点を、まず社内で共有しておきましょう。

そのうえで、客観的な記録による把握を原則とし、やむを得ず自己申告制を採る場合は、ガイドラインが求める措置を確実に講じることが重要です。

フレックスタイム制や変形労働時間制、テレワークなど働き方が多様化するなかで、労働時間管理は煩雑になりがちです。自社に合った勤怠管理システムの導入も含め、正確かつ効率良く把握できる方法を検討することをおすすめします。




よくある質問


Q. 制服への着替え時間は労働時間に含まれますか?

A. 企業が安全面・衛生面から制服等の着用を義務付けている場合、その着替え時間は「事実上強制されている時間」として労働時間に該当する可能性が高いといえます。一方、個人的な都合による着替え(始業前のランニング後の着替えなど)は含まれません。



Q. 休憩時間中に電話番をさせている場合、その時間は労働時間ですか?

A. 労働時間に該当します。休憩時間は労働から離れることが保障されている必要があるため、電話や来客対応を求められている状態では、実際に対応があったかどうかにかかわらず労働時間となります。対応を求めていない場合でも、やむを得ず対応した時間は労働時間とみなされます。



Q. 健康診断の受診時間は労働時間になりますか?

A. 特殊健康診断は、業務遂行にあたり当然に実施すべきものであるため労働時間となります。一般健康診断については労使の話し合いで決められますが、従業員の健康確保は事業の円滑な運営に必要なものであることから、労働時間とすることが望ましいとされています。



Q. 管理監督者の労働時間も把握する必要がありますか?

A. ガイドラインの適用は除外されますが、企業には健康確保を図るための適正な労働時間管理の責務があります。また、管理監督者にも深夜労働の割増賃金は発生するため、深夜時間帯の労働の把握は必要です。



Q. タイムカードがなく、自己申告制で管理しても問題ありませんか?

A. 原則は客観的な記録による把握です。やむを得ず自己申告制による場合は、適正な申告についての十分な説明、申告時間と実態の乖離がある場合の実態調査と補正、残業時間の上限設定など適正な申告を阻害する措置を設けないこと、といった措置を講じる必要があります。




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この記事の監修者

大澤 直樹(特定社会保険労務士・AFP)


大澤労務管理事務所 代表。埼玉県川越市を拠点に、給与計算代行、就業規則の作成・改定、社会保険・労働保険の手続き、労務相談まで、中小企業の労務管理を幅広く支援しています。「めんどくさい」をまるっとサポートすることをモットーに、起業初期から成長期の企業に寄り添った実務支援を行っています。



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