【基礎知識】過労死を防ぐために企業が取り組むべき6つの対策
- 大澤労務管理事務所
- 5月3日
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更新日:5月11日

長時間労働の是正からメンタルヘルス対策まで
経営者が知るべき実務ポイント
過労死等の労災請求件数は、精神障害事案を中心に年々増加しています。
企業には労働契約法上の「安全配慮義務」があり、従業員が健康を損なうことなく安全に働ける環境を整える法的責任があります。過労死等への対策は、この義務を果たすための大前提であり、事業継続を左右する重大な経営課題です。
厚生労働省が公表する「過労死等防止対策白書」では、脳・心臓疾患の労災請求件数が2022年度以降増加に転じ、精神障害事案は2010年度比で3倍以上に達していることが報告されています。
本記事では、白書のデータを踏まえ、企業が取り組むべき6つの対策を体系的に整理します。
この記事でわかること ● 過労死等の定義と労災請求件数の最新動向 ● 過労死ラインとは何か──月100時間・月80時間の基準 ● 長時間労働の削減に向けた具体的な取り組み ● メンタルヘルス対策とストレスチェック制度 ● ハラスメント防止の実務ポイント ● 経営者が今すぐ確認すべきチェックリスト |
1. 過労死等とは──定義と最新データ
【過労死等の定義】
過労死等防止対策推進法では、過労死等を以下のように定義しています。
● 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
● 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
● 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
【労災請求件数の推移──増加する精神障害事案】
最新の過労死等防止対策白書によると、脳・心臓疾患事案の労災請求件数は2022年度から増加に転じ、2023年度にはさらに大きく増加しています。「死亡」事案も2022年度以降増加傾向にあります。
一方、精神障害事案の請求件数は年々増加が続いており、2024年度は2010年度比で3倍以上に達しています。特に「自殺以外」の事案は同期間で3.5倍に増加しており、メンタルヘルス対策の重要性が改めて浮き彫りになっています。
【2023年の認定基準改正の影響】 2023年に精神障害の労災認定基準が改正され、カスタマーハラスメントが評価項目に追加されました。これにより2023年度以降の請求件数がさらに増加していると考えられます。 |
2. 「過労死ライン」とは──経営者が知るべき基準
過労死ラインとは、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価される時間外・休日労働時間の基準です。
基準 | 時間外・休日労働時間 | 業務との関連性 |
発症前1か月間 | 100時間超 | 強い |
発症前2〜6か月間平均 | 月80時間超 | 強い |
発症前1〜6か月間平均 | 月45時間超 | 徐々に強まる |
発症前1〜6か月間平均 | 月45時間以内 | 弱い |
▶注意
過労死ラインに達していなくても、労働時間以外の負荷要因(不規則な勤務、出張の多い業務、心理的負荷など)を総合的に考慮して労災認定されるケースがあります。「月80時間を超えなければ安全」という認識は誤りです。
3. 【対策①】長時間労働の削減
過労死防止の柱となるのが長時間労働の是正です。長時間労働は脳・心臓疾患の発症やメンタルヘルス不調に大きく影響します。
【適正な労働時間の把握】
客観的な方法(勤怠システム、ICカード、PCログ等)で労働時間を記録し、その記録と実際の労働実態に乖離がないかを定期的に確認します。自己申告制を採用する場合は、企業側の十分な説明と実態との乖離の是正が不可欠です。
【36協定の周知徹底】
36協定の内容(法定の限度時間・特別条項の要件)を、管理職を含む全従業員に周知します。残業を命じる立場にある上長が限度時間を理解していなければ、適切な運用はできません。社内説明会や研修、イントラネットでの情報共有を活用しましょう。
【長時間労働につながる取引慣行の是正】
短納期発注や頻繁な仕様変更など、外部との取引が社内の長時間労働を生む要因となっている場合があります。取引先との適正な納期の協議や、無理な要求への改善要請も、過重労働の防止につながります。
4. 【対策②】過重労働による健康障害の防止
長時間労働の削減と並行して、過重労働による健康障害そのものを防止する仕組みが必要です。
対策 | 内容 |
時間外労働・休日労働の削減 | 36協定の上限を超えない管理体制の構築。月45時間を超える前にアラートを出す仕組みが有効 |
睡眠時間の確保・生活習慣病予防の支援 | 健康診断の確実な受診、再検査の受診勧奨、保健指導の活用 |
長時間労働者への医師面接指導 | 月80時間超の時間外労働を行い、疲労の蓄積が認められる従業員には、医師による面接指導が義務(労安衛法66条の8) |
入社間もない従業員への配慮 | 仕事量の調整、メンター制度、メンタルヘルス対策を通じて過重負担を防止 |
障害・高齢等の従業員への配慮 | 特性に応じた業務量の調整と過重労働の防止 |
▶従業員自身の取り組み
睡眠時間の確保や健康管理に努めることも重要です。厚生労働省は、従業員の疲労蓄積度を自己チェックできるツールを公開しています。
5. 【対策③】働き方の見直し
【ワーク・ライフ・バランスの実現】
業務量の適正化、柔軟な働き方の選択肢の提供、休暇取得を阻害しない風土づくりに取り組みます。従業員が私生活と仕事を両立できる環境は、心身の健康保持に直結します。
【年次有給休暇の計画的取得】
計画的付与制度を活用し、企業と従業員が協力して休暇を取得しやすい体制を整えます。年5日の有給休暇取得が義務化されていますが、取得率の向上は過労死等の未然防止にも効果的です。
【勤務間インターバル制度の導入】
終業から翌日の始業までに一定時間(例:11時間)の休息を確保する制度です。睡眠不足や疲労蓄積を防ぎ、過重労働のリスクを低減します。導入は努力義務ですが、積極的な活用が推奨されています。
【テレワークの適切な活用】
テレワークは通勤負担の軽減や柔軟な時間配分を可能にする一方、「公私の区別がつきにくい」ことによる長時間労働のリスクも伴います。労働時間の適正な把握、業務の可視化、上司との定期的なコミュニケーションの仕組みをセットで整備することが重要です。
6. 【対策④】メンタルヘルス対策の推進
【メンタルヘルスケアの体制づくり】
相談窓口の設置、メンタルヘルスに関する研修・情報提供の実施が基本です。従業員自身が不調に気づくだけでなく、上司や同僚が周囲の変化を察知して専門家につなげる「ラインケア」の体制づくりが重要です。
【ストレスチェック制度の実施】
ストレスチェックは、従業員のメンタルヘルス不調の未然防止を目的として実施されます。現在は常時50人以上の事業場に義務付けられていますが、50人未満の事業場にも義務化が決定しています(2025年の法改正により、公布後3年以内に施行予定)。
【50人未満の事業場も義務化へ】 ストレスチェックの実施義務が全事業場に拡大される予定です。現在は努力義務の事業場も、施行に備えて制度の理解と実施体制の準備を進めておくことをおすすめします。 |
7. 【対策⑤】ハラスメントの予防・解決
職場のハラスメントは、精神障害の労災認定における主要な原因の一つです。予防・早期発見・解決・再発防止まで、一連の対策を継続的に行う必要があります。
段階 | 企業の取り組み |
予防 | トップメッセージの発信、社内方針の明文化、定期的な研修の実施 |
早期発見 | 相談窓口の設置と周知。プライバシー保護と不利益取扱いの禁止を徹底 |
解決 | 事実関係の迅速な確認、被害者への適切な対応、行為者への措置 |
再発防止 | 事案の振り返り、研修内容の見直し、組織風土の改善 |
▶法的義務として重要
「相談者のプライバシー保護」と「相談を理由とした不利益な取り扱いの禁止」は法令で義務づけられています。これらを従業員に周知し、安心して相談できる環境を整えることが不可欠です。
8. 【対策⑥】相談体制の整備
従業員が不調のサインに気づいたとき、早期に声を上げられる体制の有無が、過労死等の防止を左右します。
● 社内相談窓口の設置と定期的な周知
● 産業医・保健スタッフとの連携体制の構築
● 外部の相談機関(EAP等)の活用
● 管理職への「傾聴研修」の実施(部下の変化に気づき、声をかけるスキル)
▶従業員自身も
いつもと違う疲労感、眠れない、集中できないなどのサインに気づいたら、早めに上司・同僚・家族、または医師など専門家に相談することが大切です。
経営者のためのセルフチェックリスト
自社の過労死防止対策が十分かどうか、以下のリストで確認してみてください。
✓ 労働時間を客観的な方法(勤怠システム等)で把握しているか
✓ 36協定の内容を管理職を含む全従業員に周知しているか
✓ 月45時間を超える時間外労働者を把握し、アラートを出す仕組みがあるか
✓ 月80時間超の長時間労働者に対して医師の面接指導を実施しているか
✓ 年次有給休暇の取得率を把握し、取得促進策を講じているか
✓ 勤務間インターバル制度を導入している、または導入を検討しているか
✓ ストレスチェックを実施し、結果を職場環境の改善に活用しているか
✓ ハラスメント相談窓口を設置し、従業員に周知しているか
✓ 相談者のプライバシー保護と不利益取扱い禁止を明文化しているか
✓ 管理職向けのメンタルヘルス・ラインケア研修を実施しているか
まとめ
過労死等の防止は、企業の安全配慮義務の根幹であり、経営の持続性に直結する課題です。
最新の白書データでは、精神障害事案の労災請求件数が過去最高水準を更新しており、メンタルヘルス対策の重要性はかつてないほど高まっています。長時間労働の是正、過重労働の防止、働き方の見直し、メンタルヘルス対策、ハラスメント防止、相談体制の整備──この6つの柱を軸に、自社の対策を見直してみてください。
誰もが健康で充実して働き続けられる職場をつくることが、人材の定着と企業の持続的な成長の基盤となります。
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