カスハラ対策、企業の義務化に──2026年10月までに整えるべき実務対応
- 大澤労務管理事務所
- 8月17日
- 読了時間: 9分
更新日:8月20日

カスハラの定義・正当なクレームとの線引き・対応マニュアル・録音録画の運用まで解説
2026年10月1日から、カスハラ防止対策が企業の義務になります。
改正法の施行により、「カスタマーハラスメント」と「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」への防止対策が、企業規模を問わずすべての企業に義務付けられます。方針の策定、相談体制の整備、対応マニュアルの作成など、施行日までに準備すべきことは少なくありません。
本記事では、指針が示す「職場におけるカスハラ」の定義と判断基準、企業が講ずべき措置、そして今すぐ着手すべき実務対応のポイントを整理します。
この記事でわかること ● 「職場におけるカスハラ」の定義(3要件) ● 対象となる「職場」「従業員」「顧客など」の範囲 ● カスハラと正当なクレームの線引き ● 企業が講ずべき措置の全体像 ● 対応マニュアルに盛り込むべき4つの項目 ● 録音・録画の運用ルールと個人情報の取扱い ● 施行日までの準備チェックリスト |
1. 「職場におけるカスハラ」とは──3つの要件
指針では、次の①〜③のすべてに当てはまるものを「職場におけるカスハラ」と定義しています。
要件 | 内容 |
① | 顧客などの言動であって |
② | 雇用する従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものにより |
③ | 従業員の就業環境が害されるもの |
対面に限りません。電話やインターネット上(SNSなど)で発生するものも対象です。一方、社会通念上許容される正当な申し入れはカスハラに該当しません。障害に関する差別解消の求めや合理的配慮の要請もカスハラには当たらず、過重な負担でないかぎり適切に対応する必要があります。
2. 「職場」「従業員」「顧客など」の範囲
対象 | 範囲 |
職場 | 通常の就業場所に限らず、出張先、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせ場所(飲食の場を含む)、顧客の自宅、テレワーク中の自宅など、業務を遂行する場所すべて |
従業員 | 正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員などすべての雇用形態。派遣労働者については派遣先企業も措置義務を負う |
顧客 など | 実際に商品・サービスを利用・購入している人に加え、将来的に利用・購入する可能性がある人(来店者・問い合わせ者など)、取引先、施設の利用者なども含む |
▶経営者の視点
「うちはBtoBだから関係ない」は誤解です。取引先からの著しい迷惑行為も対象になり得ます。また、テレワーク中の従業員がオンラインで受けるハラスメントも「職場におけるカスハラ」に含まれます。
3. カスハラと正当なクレームの線引き
「社会通念上許容される範囲を超えた言動」は、「言動の内容」と「手段・態様」の2つの観点から判断します。
■「言動の内容」が範囲を超える例
● そもそも要求に理由がない、または商品・サービスとまったく関係のない要求
● 契約などにより想定しているサービスを著しく超える要求
● 対応が著しく困難、または対応が不可能な要求
● 不当な損害賠償要求
● 従業員の個人情報や勤務日・勤務時間を教えるよう求める、従業員の解雇を要求する 等
■「手段や態様」が範囲を超える例
類型 | 具体例 |
身体的な攻撃 | 暴行、傷害 |
精神的な攻撃 | 脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要 |
威圧的な言動 | 大声での恫喝、机を叩くなどの威嚇 |
継続的・執拗な言動 | 長時間の電話、繰り返しのクレーム |
拘束的な言動 | 不退去、居座り、監禁 |
社会通念上許容されるかどうかは、言動の目的や経緯、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、従業員の心身の状況、行為者との関係性などを総合的に検討します。「言動の内容」と「手段・態様」の一方のみが範囲を超える場合でも、カスハラに該当する可能性があります。
■「就業環境が害される」の判断
顧客などの言動により従業員が身体的・精神的な苦痛を受け、仕事に集中できないなど業務に重大な支障が生じる状態を指します。判断は本人の主観だけでなく、「同じ状況なら他の従業員はどう感じるか」という社会一般の基準で行います。強い苦痛を伴う態様であれば、一度の言動でも該当し得ます。
【正当な苦情を一律にカスハラ扱いしない】 正当な苦情・意見は消費者の権利であり、サービス改善や商品開発につながる重要な情報です。たとえば「購入した充電器が発熱してやけどしそうになった」という申し出に対して、購入者には安全に商品を使う権利、適切な対応・補償を受ける権利、改善を求める権利があります。従業員を守る視点と、顧客の正当な権利への配慮を両立させることが企業に求められています。 |
4. 企業が講ずべき措置の全体像
指針では、カスハラを防止するために企業が必ず講じなければならない措置が定められています。大きくは以下の柱で構成されます。
柱 | 内容 |
① 方針の明確化と周知・啓発 | カスハラから従業員を守る方針を明確にし、従業員に周知・啓発する |
② 相談体制の整備 | 相談窓口をあらかじめ定めて従業員に周知し、相談に適切に対応できる体制をつくる |
③ 事後の迅速・適切な対応 | 事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への配慮措置、再発防止に向けた対応 |
④ 被害者の安全確保等 | カスハラ対策に特有の措置。従業員の安全の確保、対応マニュアルの整備など |
⑤ あわせて講ずべき措置 | 相談者のプライバシー保護、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止の周知 |
このほか、指針には企業の努力義務や望ましい対応も示されています。詳細な内容と具体例は、厚生労働省のリーフレットで確認できます。
5. 実務対応のポイント──今すぐ着手すべき3つ
① 対応マニュアルの整備
カスハラ発生時に現場が迅速・適切に対応し、対応のばらつきを防ぐには、事前のルール化が不可欠です。マニュアルには以下の4項目を盛り込みます。
項目 | 記載する内容の例 |
企業内の対応フロー | カスハラの可能性がある案件が発生したときの現場対応フロー(誰に報告・相談するか)、警察へ通報する場合の判断基準、本社・法務部門への報告基準と連携フロー |
対応打ち切りの基準 | 警告を経ても言動が収まらない場合などに対応を打ち切る基準(退店の要請、通話・面談の強制終了など) |
安全配慮の措置 | 従業員の安全確保の方法(複数名での対応、上司による交代など)、従業員の精神面・身体面のケア |
録音・録画の運用ルール | どのような場合に録音・録画するのか、誰の判断で実施するのか |
【録音・録画データは個人情報】 顧客対応の録音・録画データには個人情報が含まれる可能性があります。事実確認などに利用する場合は、利用目的をできるかぎり特定し、自社サイトや店内掲示などで公表しておく必要があります。口頭で伝えることまでは必須ではありませんが、機器の設置状況などにより、本人が録音・録画を認識できる状態にしておくことが必要です。 |
▶業種・業態に合わせて
被害の実態や必要な対応は業種・業態により異なります。自社の事例を収集・整理し、類似事案が発生したときの対応の参考とすることも有効です。
② 被害を受けた従業員への配慮とプライバシー保護
● 暴力やセクハラなどがあれば上司が対応を代わり、従業員を現場から離す
● 状況に応じて、顧客の退去・出入り禁止、サービス停止の通告、弁護士や警察との連携も視野に入れる
● 産業医・産業カウンセラーなど専門家によるサポートへつなげる
● 録音・録画データの確認など事実確認の際は、従業員の心身の状態に十分配慮する
被害を受けた従業員のメンタルケアでは、産業医との連携が重要になります。産業医の役割と活用方法については「産業医の選任義務とは? 50人以上の事業場が知るべき要件と手続き」をあわせてご覧ください。
③ 従業員への教育研修
研修を通じてカスハラの知識や事例を学び、実際の場面を想定しておくことで、適切な対応と未然防止の両方が期待できます。現場の従業員だけでなく、管理監督者や相談対応の担当者への研修も有効です。
対象 | 研修内容の例 |
現場の従業員 | カスハラの定義と類型、初期対応の手順、報告・相談のルート、ひとりで抱え込まないことの重要性 |
管理監督者 | 部下からの報告を受けたときの対応、交代・エスカレーションの判断、被害従業員へのケア |
相談対応の担当者 | 相談の聴き取り方、プライバシー保護、事実確認の進め方、専門家・外部機関との連携 |
カスハラによる精神的負荷は、メンタルヘルス不調の大きな要因です。職場のメンタルヘルス対策全般については「過労死を防ぐために企業が取り組むべき6つの対策」で解説しています。
なお、2026年10月1日は、パート・有期雇用労働者の待遇に関するルール改正も同時に施行されます。詳しくは『同一労働同一賃金が2026年10月に改正──パート・有期雇用のルールはどう変わる?』をご覧ください。
2026年10月1日までの準備チェックリスト
✓ カスハラから従業員を守る方針を策定し、周知の準備をしているか
✓ 相談窓口を設置し、担当者を決めているか
✓ 対応マニュアル(対応フロー・打ち切り基準・安全配慮・録音録画ルール)を整備しているか
✓ 警察・弁護士など外部機関との連携方法を決めているか
✓ 録音・録画の利用目的の特定と公表(サイト掲載・店内掲示等)を準備しているか
✓ 被害を受けた従業員のケア体制(産業医・カウンセラー等)を確認しているか
✓ 従業員・管理監督者・相談担当者への研修を計画しているか
✓ 相談者のプライバシー保護と不利益取扱い禁止のルールを整備しているか
✓ 正当なクレーム・障害のある顧客への合理的配慮と、カスハラ対応の線引きを整理しているか
✓ 求職者等に対するセクハラ対策(同日施行)の準備も進めているか
まとめ
2026年10月1日から、カスハラ防止対策はすべての企業の義務になります。方針の策定、相談体制の整備、対応マニュアルの作成、従業員研修──準備すべきことは多岐にわたるため、施行直前ではなく今から着手することが重要です。
カスハラ対策は、従業員の安全確保やメンタルヘルスの保護にとどまらず、安心して働ける職場環境の整備、ひいては人材の定着にもつながります。企業としての対応姿勢を明確にすることは、顧客との健全な関係構築やトラブルの未然防止にも効果が期待でき、企業価値の向上につながる取り組みです。
方針の策定や対応マニュアルの整備に不安がある場合は、社会保険労務士へご相談ください。
カスハラ対策・就業規則整備のご相談は大澤労務管理事務所へ |
「2026年10月の義務化までに何を準備すべきかわからない」 「カスハラ対応マニュアルを整備したい」 「相談窓口や社内規程をまとめて見直したい」 大澤労務管理事務所は、埼玉県川越市を拠点に、 中小企業のハラスメント対策・就業規則整備をサポートする 社会保険労務士事務所です。 カスハラ防止方針の策定から対応マニュアル・ 相談体制の整備、従業員研修の支援まで、 経営者に寄り添った実務支援を行っています。 まずはお気軽にご相談ください。 初回のご相談は無料です。 ▶ お問い合わせ:bnc-sr.net |
参考リンク





コメント