【2026年4月・努力義務化】高年齢者の労災防止が「努力義務」に──企業に求められる5つの対策
- 大澤労務管理事務所
- 6月8日
- 読了時間: 8分

指針の全体像・職場環境改善・体力チェック・安全衛生教育・支援制度まで解説
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60歳以上の労働災害発生率は、全年齢平均の約1.5倍です。
60歳以上の雇用者は全体の19.1%にもかかわらず、休業4日以上の死傷者数は全体の30.0%を占めています。さらに、60歳以上女性の転倒による骨折等の発生率は20代の約19.5倍にのぼります。
こうした現状を受け、2026年4月に改正労働安全衛生法が施行され、「高年齢者の労働災害防止のための指針」に基づく対策が企業の努力義務として明確に位置付けられました。
本記事では、指針が求める5つの努力義務の内容と、実務で取り組むべき具体的な対策を整理します。
この記事でわかること ● 高年齢者の労災リスクが高い理由(データで把握) ● 指針が求める5つの努力義務の全体像 ● 安全衛生管理体制の確立とリスクアセスメント ● 職場環境改善のハード面・ソフト面の具体例 ● 体力チェックの実施方法と活用のポイント ● 安全衛生教育の進め方 ● エイジフレンドリー補助金等の支援制度 |
1. なぜ高年齢者の労災防止が「努力義務」になったのか
【データで見る高年齢者の労災リスク】
指標 | 60歳以上 | 全年齢平均との比較 |
雇用者に占める割合 | 19.1% | ─ |
休業4日以上の死傷者に占める割合 | 30.0% | 雇用割合の約1.5倍 |
男性の労災発生頻度(度数率) | ─ | 30代の約2倍 |
女性の労災発生頻度(度数率) | ─ | 30代の約5倍 |
60歳以上男性の墜落・転落 | ─ | 20代の約3.6倍 |
60歳以上女性の転倒による骨折等 | ─ | 20代の約19.5倍 |
さらに、60歳以上はほかの年齢層と比較して休業期間が長期化する傾向もあり、企業への影響は労災発生時の直接的な損害にとどまりません。
【「ガイドライン」から「指針」へ──何が変わったのか】
項目 | 従来(エイジフレンドリーガイドライン) | 2026年4月以降(指針) |
法的位置づけ | 行政上の推奨事項 | 労働安全衛生法に基づく努力義務 |
労基署の指導 | 任意の対応 | 指導の根拠となる公的基準 |
企業への影響 | 違反しても直接の罰則なし | 罰則はないが、労基署の指導・勧告の対象となり得る |
【単なる名称変更ではない】 「ガイドライン」から「指針」への変更は、労働基準監督署による指導の根拠となる公的基準に変わったことを意味します。努力義務であるため罰則はありませんが、労基署の臨検や是正指導の際に、指針への対応状況が問われる可能性があります。 |
2. 指針が求める5つの努力義務──全体像
No. | 努力義務 | 分類 |
① | 安全衛生管理体制の確立等 | 社内体制の整備 |
② | 職場環境の改善 | 社内体制の整備 |
③ | 高年齢者の健康や体力の状況の把握 | 従業員への対策 |
④ | 健康や体力の状況に応じた対応 | 従業員への対策 |
⑤ | 安全衛生教育 | 従業員への対策 |
3. 社内体制の整備(①安全衛生管理体制 ②職場環境改善)
① 安全衛生管理体制の確立
高年齢者の労災を防ぐには、組織的・継続的な取り組みが不可欠です。3つのステップで体制を構築します。
ステップ | 内容 | 具体例 |
経営トップの方針表明 | 高年齢者の労災防止に取り組む姿勢を全社に示す | 安全衛生方針に高年齢者対策を明記 |
組織・担当者の指定 | 方針に基づく実施体制を明確化 | 安全衛生部門または人事労務部門に担当者を配置 |
従業員の意見聴取 | 安全衛生委員会等で高年齢者の声を聴く場を設置 | 気軽にリスクや不調を相談できる窓口の整備も有効 |
【リスクアセスメントの実施】
体制を整備したうえで、高年齢者に特有の危険を把握するリスクアセスメントを実施します。
手順 | 内容 |
① 危険源の特定 | 過去の労災事例やヒヤリハット、高年齢者の身体特性(筋力・視力・平衡機能の低下、フレイル等)を踏まえて洗い出す |
② リスクの見積もり・優先順位づけ | 特定した危険源のリスクの大きさを見積もり、優先順位を付けて対策を検討・実施する |
▶推奨
リスク低減の取り組みは「計画→実施→評価→改善」のサイクルで進め、年間計画として策定することが望ましいとされています。
② 職場環境の改善──ハード面・ソフト面
職場環境の改善は、設備等の「ハード面」と作業管理の「ソフト面」の両方から取り組みます。
分類 | 改善例 |
ハード面 | 通路の段差解消・手すりの設置、照明の増設(照度確保)、滑りにくい床材への変更、重量物の運搬補助器具の導入、作業台の高さ調整 |
ソフト面 | 作業速度や作業量の調整、こまめな休憩の確保、複数人での作業体制の導入、暑熱・寒冷環境への配慮(水分補給の声掛け等)、勤務時間帯の柔軟化 |
暑熱環境下での作業は高年齢者にとってリスクが高い領域です。熱中症対策の義務化と具体的な予防アクションについては「職場の熱中症対策、義務化にどこまで対応できていますか?」で詳しく解説しています。
4. 従業員への対策(③健康・体力の把握 ④状況に応じた対応 ⑤安全衛生教育)
③ 健康や体力の状況の把握
法定の健康診断の確実な実施に加えて、高年齢者が自身の体力を客観的に把握できる「体力チェック」の実施が推奨されています。
チェック項目 | 測定の目的 |
握力 | 筋力の維持状況の確認 |
開眼片足立ち(バランステスト) | 平衡機能の確認(転倒リスクの評価) |
ファンクショナルリーチ(前方へのリーチ距離) | 動的バランスの確認 |
全身持久力(6分間歩行等) | 持久力の確認 |
TUG(椅子から立ち上がり3m歩行して戻る) | 複合的な運動能力の確認 |
▶活用のポイント
体力チェックの結果は本人の自覚促進だけでなく、職場環境の改善にも反映させます。なお、個人の健康・体力情報は必要な範囲に限って取り扱い、不利益な取扱いが生じないよう、取扱いルールを安全衛生委員会等であらかじめ定めておく必要があります。
④ 健康や体力の状況に応じた対応
個々の健康・体力に応じて、産業医の意見も踏まえたうえで就業上の措置を検討します。
対応例 | 内容 |
労働時間の短縮 | 身体的負担を軽減し、疲労の蓄積を防ぐ |
深夜業の回数削減 | 夜間労働は高年齢者の身体負荷が大きい |
作業内容の転換 | 身体機能に合った作業への配置換え |
ワークシェアリング | 業務を分担し、個人あたりの負荷を軽減 |
疾病を抱えて働く高年齢者については、治療と仕事の両立も考慮に入れることがポイントです。
治療と仕事の両立支援の環境整備については「治療と仕事の両立支援、企業の『努力義務』で何が変わる?」もあわせてご覧ください。
⑤ 安全衛生教育
対象 | 教育のポイント |
高年齢者本人 | 加齢による身体機能の変化、労災リスクの自覚、安全な作業方法、体力維持・向上のための取り組み |
管理監督者 | 高年齢者の身体特性の理解、配慮すべき事項、作業指示のポイント |
同僚の従業員 | 高年齢者と安全に協働するための知識、声掛けのポイント |
▶高年齢者に限らない効果
高年齢者向けの安全教育は、結果として全従業員の安全意識向上につながります。「高年齢者のための対策」ではなく「誰もが安全に働ける職場づくり」として全社的に推進しましょう。
5. 活用できる支援制度
支援制度 | 内容 |
エイジフレンドリー補助金 | 高年齢者の労働災害防止のための設備投資(手すり・照明・補助器具等)に対する補助。中小企業が対象 |
産業保健総合支援センター | 体力チェックや安全衛生教育に関する無料相談・情報提供 |
中央労働災害防止協会 | 転倒等リスク評価セルフチェック票の提供、安全衛生に関する研修・セミナー |
安全衛生関係助成金 | 安全衛生教育や設備改善に活用できる各種助成金 |
助成金制度の2026年度の改正ポイントについては「【2026年度】押さえるべき助成金の改正ポイント4選」で詳しく解説しています。
経営者のための高年齢者労災防止チェックリスト
✓ 自社の60歳以上の従業員数と、従業員全体に占める割合を把握しているか
✓ 経営トップとして高年齢者の労災防止に取り組む方針を表明しているか
✓ 安全衛生管理体制に高年齢者対策の担当者を配置しているか
✓ 高年齢者に特有のリスクを踏まえたリスクアセスメントを実施しているか
✓ 職場環境の改善(段差解消・照明・手すり等)に取り組んでいるか
✓ 法定の健康診断を確実に実施し、結果をフォローしているか
✓ 体力チェックの実施を検討しているか(またはすでに実施しているか)
✓ 高年齢者の健康・体力に応じた就業上の措置(時短・配置転換等)を講じているか
✓ 高年齢者本人・管理監督者・同僚への安全衛生教育を実施しているか
✓ エイジフレンドリー補助金等の支援制度の活用を検討しているか
まとめ
2026年4月から、高年齢者の労災防止が改正労働安全衛生法に基づく企業の努力義務となりました。雇用者の約2割を占める60歳以上が、労災死傷者の約3割を占めるという現実を踏まえれば、対策の重要性は明らかです。
指針が求める5つの努力義務──安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善、健康・体力の把握、状況に応じた対応、安全衛生教育──はいずれも、高年齢者だけでなく全従業員にとって安全な職場づくりにつながるものです。
高年齢者が安心して働き続けられる職場は、企業の持続的な成長を支える基盤でもあります。記事末尾の従業員向け説明資料もあわせてご活用ください。
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