【法改正対応】2026年4月・努力義務化 治療と仕事の両立支援、企業の「努力義務」で何が変わる?
- 大澤労務管理事務所
- 5月4日
- 読了時間: 8分
更新日:5月11日

2026年4月施行
環境整備の5つのポイントと実務対応
通院しながら働く人は、就業者の4割・2,326万人に達しています。
労働施策総合推進法の改正により、2026年4月1日から「治療と就業の両立支援」に関する必要な措置を講じることが企業の努力義務となりました。
医療技術の進歩で「治療しながら働き続ける」ことが現実的な選択肢となった今、がんや難病を抱える従業員が安心して働き続けられる環境を整備することは、人材確保と企業の持続的成長に直結する経営課題です。
本記事では、努力義務化の背景、環境整備の5つのポイント、両立支援コーディネーターの活用方法まで体系的に解説します。
この記事でわかること ● なぜ「治療と就業の両立支援」が努力義務化されたのか ● 努力義務化で企業に求められる具体的な取り組み ● 両立支援における9つの留意事項 ● 環境整備の5つのポイント(基本方針・研修・相談窓口・制度整備・連携) ● 両立支援コーディネーターの役割と活用方法 ● 経営者が今すぐ着手すべきチェックリスト |
1. なぜ「両立支援」が努力義務化されたのか
【疾病を抱える従業員の増加】
厚生労働省の資料によれば、通院しながら働く人は2022年時点で就業者の4割(2,326万人)に達し、年々増加傾向にあります。医療技術の進歩により、がんなどかつて不治の病とされてきた疾病の生存率が改善し、「治療しながら働き続ける」ことが現実的な選択肢となっています。
【労働力人口の高齢化】
労働力人口の高齢化が進み、年齢とともに罹患率が高まるがん等の疾病を抱えながら働く人は増加しています。疾病を抱える従業員への対応は、特別なケースではなく日常的な労務課題となっているのです。
【治療開始前の退職が4人に1人】 疾病を理由に退職した人の4人に1人は、治療開始前(診断確定時〜最初の治療開始まで)に退職しているという実態があります。治療が始まる前の段階で相談窓口や支援体制が整っていれば、防げた離職も少なくありません。 |
これまで企業の体制整備は任意の取り組みとして位置づけられてきましたが、こうした状況を踏まえ、企業による取り組みを本格的に推進するため、努力義務化に至りました。
2. 努力義務化で企業に求められる取り組み
今回の改正により、企業は職場における両立支援を促進するための必要な措置を講じることが努力義務となります。厚生労働省は具体的な方法を示す指針を公表しており、両立支援を労働安全衛生法上の健康保持増進措置とあわせて実施することが望ましいとされています。
企業は、疾病を抱える従業員を就労させる場合、業務により疾病が増悪しないよう、必要な就業上の措置と治療に対する配慮を行うことが求められます。
3. 両立支援における9つの留意事項
指針では、両立支援を進めるにあたっての9つの留意事項が示されています。
No. | 留意事項 | ポイント |
1 | 安全と健康の確保 | 就業による疾病の増悪・再発防止が大前提 |
2 | 従業員本人の取り組み | 本人の治療への主体的な取り組みも重要 |
3 | 従業員本人の申出 | 両立支援は本人からの申出が起点。申出しやすい環境整備が不可欠 |
4 | 措置等の検討と実施 | 本人との十分な話合いを通じて措置を検討。安易な就業禁止は避ける |
5 | 両立支援の特徴を踏まえた対応 | 症状や治療方針が変化するため、継続的なフォローが必要 |
6 | 個別事例の特性に応じた配慮 | 時間的制約だけでなく業務遂行能力も踏まえた個別対応 |
7 | 対象者・対応方法の明確化 | 社内ルールとして対象範囲と対応フローを明確にしておく |
8 | 個人情報の保護 | 健康情報の取扱いルールを定め、必要最小限の共有にとどめる |
9 | 関係者間の連携 | 主治医・産業医・人事・上司など関係者間の情報共有と連携 |
▶経営者として特に重要
「安易な就業禁止は避け、可能な限り配置転換等により就業機会を確保する」という点です。疾病を理由とした一律の排除ではなく、個別の状況に応じた柔軟な対応が求められます。
4. 環境整備の5つのポイント
個別の対応を始める前に、まず企業として土台を整えることが重要です。指針では5つの環境整備が示されています。
【① 基本方針の表明と従業員への周知】
企業として両立支援に取り組む基本方針と具体的な対応方法を社内ルールとして作成し、全従業員に周知します。トップの姿勢を示すことで、両立支援を実現しやすい職場風土が醸成されます。
【② 研修等による意識啓発】
当事者だけでなく同僚となり得るすべての従業員と管理職に対して研修を通じた意識啓発を行います。
● 社内研修会やセミナーの実施
● 外部機関(産業保健総合支援センター等)の研修への参加
● ポスター・リーフレットの作成・配布
【③ 相談窓口の明確化】
両立支援は従業員からの申出が起点となるため、安心して相談・申出ができる窓口を整備します。メンタルヘルスの既存窓口を活用したり、人事・総務部門や産業保健スタッフ(産業医・保健師)を窓口に位置づける方法があります。
▶重要
申出があった場合の情報の取扱いルール(誰に共有するか、どこまで共有するか)を事前に明確にしておくことが、従業員の安心感につながります。
【④ 制度・体制の整備 】
治療と就業の両立を支える休暇制度・勤務制度を検討します。
制度の種類 | 具体例 |
休暇制度 | 時間単位の年次有給休暇、傷病休暇・病気休暇(有給・無給)、失効年休の積立制度 |
勤務制度 | 時差出勤、短時間勤務、在宅勤務(テレワーク)、試し出勤制度 |
その他 | 所定外労働の制限、フレックスタイムの活用 |
制度を整えるだけでなく、それを実際に機能させるための体制づくりも重要です。
● 両立支援に関する対応ルールの策定と関係者への周知
● 休業・復職の手順の標準化
● 復職後の業務量や就業上の措置の定期的な見直し
【⑤ 社内外の連携体制の構築 】
両立支援は企業単独では完結しません。
産業保健スタッフや主治医と連携しながら進めることが重要です。
連携先 | 役割・支援内容 |
医療機関 | 医療ソーシャルワーカー・看護師による治療計画の共有、就業上の意見書の発行 |
公的機関 | 都道府県労働局、産業保健総合支援センターによる無料相談・情報提供 |
専門家 | 社会保険労務士による制度設計・助成金活用の支援 |
5. 両立支援コーディネーターの活用
医療機関と企業の連携が必要とわかっていても、「具体的に何をすればいいかわからない」というのが多くの企業の実情です。そこで重要な役割を担うのが、両立支援コーディネーターです。
【両立支援コーディネーターとは】
従業員(患者)・医療機関・企業の3者をつなぐ橋渡し役として、情報共有や調整をサポートする役割です。独立行政法人労働者健康安全機構が実施する「両立支援コーディネーター基礎研修」を修了した方が担います。国家資格ではなく、医療・企業・支援機関のさまざまな職種の方が受講可能です。
【活用できる場面と担い手】
活動の場 | 担い手 | 活用場面 |
医療機関 | 医療ソーシャルワーカー、看護師 | 主治医と職場をつなぐ文書サポート、復職に向けた就業調整 |
企業内 | 産業医、労務担当者 | 現場の業務実態を主治医と共有し、具体的な措置・配慮に落とし込む |
支援機関 | 社会保険労務士、キャリアコンサルタント | 第三者の視点からの助言、助成金活用サポート、制度面の支援 |
▶中小企業へのおすすめ
社内に両立支援コーディネーターがいない場合でも、外部の社会保険労務士やキャリアコンサルタントと連携することで、同等のサポートを受けることが可能です。
6. 経営者のための環境整備チェックリスト
自社の両立支援体制の現状を確認してみてください。
✓ 両立支援に関する基本方針を策定し、従業員に周知しているか
✓ 従業員が安心して相談できる窓口を設置し、情報の取扱いルールを定めているか
✓ 管理職を含む従業員への意識啓発(研修・情報提供)を実施しているか
✓ 時間単位有給、時差出勤、短時間勤務、テレワークなど柔軟な勤務制度を整備しているか
✓ 休業・復職の手順を標準化し、社内で共有しているか
✓ 産業医や主治医との連携体制を構築しているか
✓ 両立支援コーディネーターや外部専門家の活用を検討しているか
✓ 就業規則に両立支援に関する規定を盛り込んでいるか
✓ 活用可能な助成金(治療と仕事の両立支援助成金等)を確認しているか
まとめ
2026年4月から、治療と就業の両立支援が企業の努力義務となりました。通院しながら働く人が就業者の4割を超える今、両立支援は「特別な配慮」ではなく「日常の労務管理の一部」です。
まずは基本方針の表明、相談窓口の設置、柔軟な勤務制度の整備など、できるところから段階的に取り組むことが大切です。企業単独での対応が難しい場合は、社会保険労務士や産業保健総合支援センターなど外部の専門家を積極的に活用しましょう。
疾病を抱えても安心して働き続けられる職場をつくることが、人材の定着と企業の持続的な成長の基盤となります。
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