【基礎知識】従業員が退職するとき、企業がやるべき手続きの全体像
- 大澤労務管理事務所
- 5月18日
- 読了時間: 8分

社会保険・雇用保険・住民税・書類交付
期限と届出先を一覧で整理
退職手続きは、1つの届出漏れが退職者の不利益に直結します。
社会保険の資格喪失届は5日以内、雇用保険は10日以内、源泉徴収票は1か月以内──それぞれ期限が異なり、届出先もバラバラです。退職証明書の発行を怠れば罰金の可能性もあります。
本記事では、従業員の自己都合退職時に企業が行うべき手続きを、時系列で整理します。「いつまでに・どこに・何を届出するか」を一覧で把握できるようにまとめました。
この記事でわかること ● 退職手続きの全体フロー(時系列) ● 社会保険・雇用保険の資格喪失届の届出先・期限・届出方法 ● 離職票の交付手続きとマイナポータル直接交付 ● 退職証明書・源泉徴収票の交付義務と罰則 ● 住民税の処理(退職月による一括徴収・普通徴収の違い) ● 有給休暇の買い上げ・貸与物回収の注意点 |
1. 退職手続きの全体フロー──時系列で把握する
退職の申出から退職後の手続きまでを時系列で整理します。
タイミング | やること | 期限・届出先 |
退職の申出時 | 退職届の受理、退職日・引継ぎスケジュールの確定 | 就業規則で定めた期日まで |
退職日まで | 健康保険証・資格確認書等の回収案内、貸与物の回収、有休消化の確認 | 退職日当日まで |
退職日翌日〜5日以内 | 社会保険(健保・厚年)資格喪失届の届出 | 事務センターまたは年金事務所 |
退職日翌々日〜10日以内 | 雇用保険 資格喪失届の届出(+離職証明書) | 管轄のハローワーク |
退職翌月10日まで | 住民税 異動届出書の提出 | 退職者の住所地の市町村 |
退職日〜1か月以内 | 源泉徴収票の交付 | 退職者本人へ |
退職後2年間 | 退職証明書の発行(本人から請求があった場合) | 退職者本人へ |
▶経営者の視点
このフローを「退職手続きチェックリスト」として社内に常備しておくと、担当者が変わっても手続き漏れを防げます。
2. 退職届の受理と注意点
退職届の提出は法令上の義務ではありませんが、退職の意思を明確に書面で確認するために重要です。あらかじめテンプレートを作成し、就業規則で提出期日(退職日の○日前まで)を定めておきましょう。
【退職理由の記載に注意】 退職理由欄に「一身上の都合」と記載されるケースが多いですが、妊娠、育児、介護、疾病などが理由の場合は、その旨を記載してもらいましょう。離職票に記載する退職理由によって、退職者が受けられる失業手当の給付日数に差が生じるためです。 |
3. 社会保険の手続き
【健康保険証・資格確認書等の回収】
社会保険に加入している従業員が退職する場合、マイナ保険証・資格確認書・健康保険証(経過措置で利用中の場合)・資格情報のお知らせは、退職日までしか利用できない旨を事前に案内します。
退職する従業員に以下が交付されている場合は、最終出社日または退職日以降に回収します。
回収対象 | 備考 |
健康保険証 | 2024年12月2日以降の資格取得者には交付されていない |
資格確認書 | 交付対象者のみ。有効期限切れのものは返却不要 |
扶養家族の健康保険証・資格確認書 | 扶養家族がいる場合 |
高齢受給者証 | 交付されている場合 |
健康保険特定疾病療養受給者証 | 交付されている場合 |
健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証 | 交付されている場合 |
【資格喪失届の届出】
項目 | 内容 |
届出様式 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者不該当届 |
提出期限 | 退職日の翌日から5日以内 |
届出先 | 事務センター または 管轄の年金事務所 |
届出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参(窓口は年金事務所のみ) |
添付書類 | 回収した健康保険証・資格確認書等 |
【任意継続の案内】
退職者は、退職日の翌日から20日以内に手続きを行えば、健康保険の「任意継続」により今までと同じ保険者(協会けんぽ等)に加入できます。ただし、厚生年金には任意継続の制度がないため、退職後は国民年金に加入することになります。退職者から問い合わせがあった場合に備え、この仕組みを把握しておきましょう。
4. 雇用保険の手続き
【資格喪失届と離職票】
項目 | 内容 |
届出様式 | 雇用保険被保険者資格喪失届 |
提出期限 | 退職日の翌々日から10日以内 |
届出先 | 事業所の所在地を管轄するハローワーク |
届出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 |
添付書類 | 離職証明書、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書等(離職票不要の場合は離職証明書・賃金台帳の添付不要) |
【59歳以上は離職票の交付が必須】 離職票の交付は原則として本人の希望による手続きですが、退職時の年齢が59歳以上の場合は、本人が希望しなくても離職票交付の手続きが必要です。 |
【マイナポータルへの離職票直接交付(2025年1月〜)】
2025年1月20日から、一定の条件を満たす場合は、退職者のマイナポータルに離職票が直接交付されるサービスが開始されました。この場合、企業から退職者へ離職票を郵送する手間が不要になります。
条件は、
①届出済みのマイナンバーが被保険者番号と紐付いていること
②退職者がマイナポータルと雇用保険WEBサービスの連携設定を行っていること
③企業が電子申請で手続きを行っていること
の3つすべてを満たす場合です。
5. 退職証明書・源泉徴収票の交付義務
【退職証明書】
項目 | 内容 |
交付義務 | 退職者(退職予定者)から希望があった場合に発行 |
記載項目 | 使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職理由のうち本人が希望した項目のみ |
対応期間 | 退職後2年間 |
罰則 | 発行を拒否した場合、30万円以下の罰金 |
【源泉徴収票】
項目 | 内容 |
交付義務 | 年の途中で退職した従業員に対し、必ず交付(本人の希望に関係なく) |
交付期限 | 退職日から1か月以内 |
罰則 | 交付しなかった場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
6. 住民税の処理──退職月で対応が変わる
住民税を特別徴収(給与天引き)している従業員が退職した場合、「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職翌月10日までに、退職者の住所地の市町村へ提出します。
残りの住民税の処理方法は、退職月によって異なります。
退職時期 | 処理方法 |
1月1日〜5月31日 | 残りの住民税を退職時の給与・退職金等から一括徴収して市町村に納付(本人の希望に関係なく)。ただし、一括徴収額が給与等を超える場合は普通徴収に切替可能 |
6月1日〜12月31日 | 退職月の翌月以降は普通徴収に切替。ただし、本人が希望すれば翌年5月までの住民税を一括徴収して市町村に納付することも可能 |
▶転職先が決まっている場合
退職者から「異動届出書」の発行を依頼されることがあります。転職先の企業からこの届出書を市町村に提出してもらうと、特別徴収が継続されます。依頼があった場合は作成して渡しましょう。
7. 退職手続きで注意すべき2つのポイント
【有給休暇の買い上げ】
年次有給休暇の買い上げは原則できません。ただし、退職日までに取得しきれない年次有給休暇については、企業が買い上げることが認められています。あくまで「退職時の未消化分」に限られる点に注意してください。
【貸与物の回収】
パソコン、携帯電話、名刺、社員証など、会社の貸与物は退職時に返却してもらいます。
【給与からの一方的な控除は法令違反】 貸与物が返却されないことを理由に、最後の給与から備品費用を一方的に控除することはできません。事前に労使協定で「未返却時に○○円支払う」という合意があったとしても、この方法は法令違反となります。返却を促す別の手段(書面での督促等)で対応してください。 |
退職手続きチェックリスト
退職の申出があったら、以下のリストで対応漏れを防ぎましょう。
✓ 退職届を受理し、退職日・引継ぎスケジュールを確定したか
✓ 退職理由を正確に確認したか(離職票の退職理由に影響)
✓ 健康保険証・資格確認書等の回収を案内したか
✓ 貸与物(PC・携帯・社員証・名刺等)の返却リストを共有したか
✓ 有給休暇の残日数を確認し、消化スケジュールを決めたか
✓ 社会保険の資格喪失届を5日以内に届出したか
✓ 雇用保険の資格喪失届を10日以内に届出したか
✓ 離職票の交付希望を確認したか(59歳以上は必須)
✓ 住民税の異動届出書を退職翌月10日までに提出したか
✓ 源泉徴収票を退職日から1か月以内に交付したか
✓ 退職証明書の発行依頼がないか確認したか
まとめ
従業員の退職手続きは、社会保険・雇用保険・住民税・書類交付と多岐にわたり、それぞれ届出先と期限が異なります。手続きの遅延は退職者の不利益に直結し、企業への信頼低下やトラブルの原因にもなります。
本記事のフロー表とチェックリストを「社内の退職手続きマニュアル」として活用し、担当者が変わっても抜け漏れなく対応できる体制を整えておきましょう。
退職手続きの代行や就業規則の退職規定の見直しなど、実務対応に不安がある場合は専門家にご相談ください。
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