【経営課題】人手不足でも人が辞めない中小企業はどんな対策をしているのか?
- 大澤労務管理事務所
- 5月12日
- 読了時間: 8分

労働経済白書のデータで読み解く
従業員が定着する職場の5つの条件
2040年には就業者数が約1,000万人減少する──そんな推計をご存じですか?
厚生労働省「労働経済白書(2025年版)」は、人手不足が今後さらに深刻化することを明確に示しています。この状況下で企業が取り組むべきは、「採用を増やす」ことだけではありません。
今いる従業員に「この会社で働き続けたい」と思ってもらうこと──つまり「定着」が、人手不足時代の最も重要な経営戦略です。
本記事では、白書のデータを経営者目線で読み解き、従業員が定着する職場の条件と、今すぐ取り組める具体策を整理します。
この記事でわかること ● 人手不足の構造的な原因(白書データで把握する) ● 「採用」だけでは解決しない理由 ● 年功賃金のフラット化と転職者増加の実態 ● 従業員が感じる「働きやすさ」と「働きにくさ」の要因 ● 人が辞めない職場をつくる5つの条件 ● 経営者のための定着力チェックリスト |
1. 人手不足はなぜ「構造的」なのか
人手不足を「一時的な景気の問題」と考えている経営者は少なくありません。しかし、白書のデータは、人手不足が日本経済の構造そのものに起因していることを示しています。
【就業者数は2040年に約1,000万人減少する見通し】
生産年齢人口の減少により、経済成長と労働参加が進まないケースでは、2022年比で2040年に就業者数が約1,000万人減少すると推計されています。これは「頑張って採用すれば何とかなる」レベルの話ではありません。
【女性の労働参加がこれまでの労働力を支えてきた】
白書によると、男性の労働力供給量は1990年代以降減少傾向にある一方、女性は2010年代以降増加傾向にあり、全体としてはほぼ横ばいで推移してきました。つまり、これまで日本の労働力は女性の参加によって何とか維持されてきたのです。
【経営者が認識すべきこと】 人手不足は景気循環ではなく人口構造の問題であり、今後改善することはありません。「待てば人が採れる時代」は終わっています。採用コストをかけて人を入れても、すぐに辞められては意味がありません。定着に投資することが、最もコスト効率の高い人手不足対策です。 |
2. 「採用」だけでは解決しない理由
【年功賃金のフラット化──同じ会社にいるメリットが薄れている】
白書のデータによると、新卒から同一企業に勤め続ける「生え抜き社員」の賃金カーブは1993年以降フラット化しています。かつては「長く勤めれば給与が上がる」という年功賃金が、従業員の長期勤続のインセンティブとして機能していました。しかし、そのインセンティブが弱まった今、「この会社にいる理由」を賃金以外にも用意しなければ、人は離れていきます。
【転職者の増加と「生え抜き社員」の減少】
実際に、1990年代以降は転職者が増加し、生え抜き社員の割合は低下傾向で推移しています。転職市場の拡大により、従業員にとって「他社に移る」選択肢のハードルは確実に下がっています。
【就業意識の多様化】
白書では、労働者の就業意識が多様化していることも指摘されています。余暇の重要性が高まり、労働時間の限定や就業地の限定など、働き方に対する多様な希望を持つ従業員が増えています。「うちの会社のやり方に合わせてもらう」という発想では、優秀な人材から順に離れていくリスクがあります。
3. 白書が示す「働きやすさ」と「働きにくさ」の正体
白書では、従業員が感じる「働きやすさ」と「働きにくさ」の要因を調査しています。このデータは、定着施策の優先順位を考えるうえで非常に有用です。
【従業員が「働きやすい」と感じる要因】
順位 | 要因 |
1 | 残業が少ない |
2 | 柔軟な有休制度の導入・推進 |
3 | テレワーク・フレックスタイムなど柔軟な勤務形態 |
4 | 明確な評価制度・キャリアパス |
5 | 職場の人間関係が良い |
【従業員が「働きにくい」と感じる要因】
順位 | 要因 |
1 | 慢性的な人手不足 |
2 | 職場で仕事上の相談ができる人がいない |
3 | 長時間労働が常態化している |
4 | 評価・昇進の基準が不透明 |
5 | 有給休暇が取りにくい雰囲気 |
注目ポイント 「働きにくさ」の2位に「職場で仕事上の相談ができる人がいない」が入っています。これは賃金や制度の問題ではなく、マネジメント(管理職の関わり方)の問題です。つまり、お金をかけなくても改善できる要素が、定着に大きく影響しているのです。 |
4. 人が辞めない職場をつくる5つの条件
白書のデータと、企業が実際に効果を上げている施策を踏まえ、従業員の定着を促す5つの条件を整理します。
【条件① 処遇の改善(賃金・評価制度)】
白書によると、多くの企業が定着施策として処遇改善に取り組んでおり、特に若手の賃金引き上げが実施されています。ただし、賃上げだけでは定着効果は限定的です。賃金に加えて「なぜこの評価なのか」が従業員に伝わる透明性のある評価制度をセットで整備することが重要です。
取り組み | 具体例 |
賃金の見直し | 初任給の引き上げ、定期昇給の明確化、手当の整理 |
評価制度の整備 | 評価項目・基準の明文化、フィードバック面談の定期実施 |
キャリアパスの提示 | 昇進・昇格の条件を明確に。「ここにいれば成長できる」実感を持たせる |
【条件② 労働時間の適正化】
「残業が少ない」は、働きやすさの要因で第1位です。長時間労働の是正は、過労死防止だけでなく、定着にも直結します。36協定の上限管理、勤務間インターバル制度の導入、業務量の平準化に取り組みましょう。
【条件③ 柔軟な働き方の導入】
時差出勤、短時間勤務、テレワーク、フレックスタイムなど、従業員のライフイベントに合わせた働き方の選択肢を用意します。「制度はあるが使えない」状態にしないために、管理職が率先して利用する姿勢も重要です。
【条件④ 相談しやすい職場環境(マネジメント改善)】
「職場で仕事上の相談ができる人がいない」は、働きにくさの大きな要因です。1on1面談の定期実施、メンター制度の導入、管理職向けの傾聴研修など、お金をかけなくても今日から始められる施策があります。
施策 | コスト | 効果 |
1on1面談の定期実施(月1回15分) | 低 | 上司と部下の信頼関係の構築、不調の早期発見 |
メンター制度(先輩社員の指名) | 低 | 新人・若手の孤立防止、相談先の確保 |
管理職向け傾聴研修 | 中 | マネジメント力の底上げ、離職予兆の察知 |
【条件⑤ 休暇取得の促進】
有給休暇の計画的付与制度を活用し、取得しやすい風土をつくります。年5日の取得義務はもちろん、取得率そのものを定着の指標として管理するのが効果的です。
5. 定着と生産性向上は表裏一体
白書のもう一つの重要なメッセージは、「労働力供給量の維持だけでなく、労働生産性の向上が不可欠」という点です。人が定着すれば、教育コストの無駄がなくなり、スキルの蓄積により生産性が上がるという好循環が生まれます。
【中小企業のAI・デジタル活用の遅れ】
白書によると、従業員300人未満の企業で生成AIを「全社的に活用している」と回答した割合はわずか1.3%にとどまっています。業務の効率化・自動化を進めることで、限られた人員でも生産性を維持・向上できます。
▶導入のポイント
AI等の新しい技術を職場に導入する際は、従業員の不安を払拭することが不可欠です。具体的な活用事例や成果を丁寧に周知し、研修やスキル形成の機会を確保することで、技術導入への抵抗感を軽減できます。
経営者のための「定着力」チェックリスト
自社の人材定着力を確認してみてください。
✓ 直近1年間の離職率を把握しているか
✓ 退職者の退職理由を分析し、傾向を把握しているか
✓ 若手の初任給・賃金水準を同業他社と比較しているか
✓ 評価制度の基準を従業員に明示しているか
✓ 月の残業時間の平均を把握し、削減目標を設定しているか
✓ 時差出勤・短時間勤務・テレワークなど柔軟な勤務制度があるか
✓ 管理職が定期的に部下と1on1面談を行っているか
✓ 有給休暇の取得率を把握し、計画的取得を促進しているか
✓ 新入社員・若手にメンターや相談相手をつけているか
✓ 業務効率化(IT・AI活用含む)に投資しているか
まとめ
人手不足は一時的な景気の問題ではなく、人口構造の変化に起因する構造的な課題です。2040年には就業者数が約1,000万人減少するという推計の中で、企業が取り組むべき最優先事項は「今いる人に辞められないこと」です。
白書のデータは、定着の鍵が「賃金」だけでなく、「残業の少なさ」「柔軟な働き方」「相談できる人がいること」にあることを明確に示しています。特にマネジメントの改善は、コストをかけずに今日から取り組める施策です。
人が辞めない職場は、一朝一夕にはできません。しかし、1つずつ条件を整えていくことが、人手不足時代を乗り越える最も確実な経営戦略です。
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「人が辞めない職場をつくりたい」 「就業規則を見直して働きやすさを改善したい」 「賃金制度の整備を進めたい」 大澤労務管理事務所は、埼玉県川越市を拠点に、 中小企業の人材定着・職場環境改善をトータルでサポートする 社会保険労務士事務所です。 就業規則の整備、賃金制度の設計、 柔軟な働き方の導入支援から助成金の活用まで、 経営者に寄り添った実務支援を行っています。 まずはお気軽にご相談ください。 初回のご相談は無料です。 ▶ お問い合わせ:bnc-sr.net |
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